ポケモンさんから「新しく立ち上げるブランドのブランディングムービーを作りたい」というお話をいただいたのは2018年。子どもから大人まで誰もが知っている「ポケモン」ですが、新たに展開しようとしていたのはターゲットを大人に限定した「ポケモンシャツ」でした。
ポケモンさんにとっても初めてとなるチャレンジングな試みに対して、光栄にもエレファントストーンが映像制作で携わらせていただくことに。お預かりした想いをもとに、どのようにブランディングムービーとしてかたち作っていったのか、ディレクターを勤めた嶺に話を伺いました。
最初にポケモンさんからはどのようなご相談をいただいたのでしょうか。
「子どもの頃に初代のポケットモンスター赤・緑をやっていた世代がターゲットで、ポケモンさんとしては珍しくターゲットをとても限定した広告を打ち出そうとされていたんです。いかにその世代の人たちの心に刺さるか、そしてYouTubeやSNSで高いエンゲージメントを獲得できるかを前提に話は進んでいきました。
ストーリー表現で『あの頃ポケモンに夢中だった』というバックグラウンドも描いてほしいというご要望をいただきましたね」
ご相談を受けて、どのようなストーリーにしようと思いましたか?
「まずはポケモンシャツの特性とこの製品に込められた想いを読み解きました。ポケモンシャツは、ポケモンのキャラクターがポケットや襟裏、袖裏に“さりげなく”デザインされているのが特徴です。だから、大人がビジネスシーンで着用できる。
かつてポケモンが好きだった純粋な気持ちと同様に、大人になった今でもポケモンを好きだという気持ちを肯定してあげるような製品なんだろうな、と自分の中で言語化をしました。
そんな想いが込められた製品のブランディングムービーなので、『好きという気持ちを肯定するストーリーにしよう』と思いましたね」
製品の特性と、映像のストーリーをリンクさせたわけですね! そこからどのようにシナリオを組み立てていったのでしょうか。
「どういうシナリオにすれば、そのメッセージが伝わるのかを考えていきました。僕自身は子どもの頃、ポケモンにそこまでハマっていた訳じゃなかったんです。だから、実体験にはあまり頼れなかった。
でもそれは大した問題ではありませんでした。何故ならポケモンを好きな気持ちや、ポケモンを通して友達と仲良くなったような経験は、とても普遍的な感情であり体験だからです。今回のストーリーの核はかつて好きだったものを思い出すことなので、そのような実体験と紐付けながら構造を考えていきました。
視聴者に対して親近感を持ってもらい自分ごととして感じてもらうために、主人公にポケモンを楽しんでいたことを忘れかけている男性を設定。そして、その男性がネガティブな状態から映像をスタートさせることにしました。
そこから以下のように起承転結で展開していきます。
起:つまらない毎日のルーティーン
承:ある男の子と出会い、ポケモンでに夢中だった子ども時代を回想する
転:何かを変えようと思い、ポケモンシャツを買ってみる
結:ポケモンシャツを着て楽しくなって、子どもと出会う
主人公はある男の子と出会い、昔ポケモンに夢中になっていた日々を思い出します。これをきっかけにつまらない毎日から何かを変えようと思い、ポケモンシャツを買う。実際にポケモンシャツを着て迎える朝は新鮮な気持ちになっていて、今までとは違う楽しい日々を過ごしはじめます。そんな時にまた同じ男の子と遭遇し、『あっポケモンだ!』とポケモンの柄が目に映ったその子の声に気がつきます。
以前の彼だったらきっと、苦笑いをするだけで通りすぎていたでしょうね。でも、この時はもうルーティンから抜け出しています。変化しているから、男の子の『あっポケモンだ!』という声に対して目線を合わせて応えられるんです」
「昔の自分のような男の子と『お互いに好き』という気持ちで触れ合えたことで、大人になった今の自分の『好き』という気持ちも肯定できるようになっている。好きという気持ちが、過去形ではなく現在進行形になって、今を生きる自分がポジティブに変化していることを表現しています。
この変化を自然と視聴者に感じ取っていただけるように、反復と対比という構造を入れ込みました」
反復と対比とは、具体的にどういった構造のことなのでしょうか?
一言で言うと、同じ場面で違う自分を描くことで変化を表現しています。例えば、シナリオでは以下のように反復と対比を入れています。
【対比】
1、『つまらない主人公』と『ポケモン好きで楽しそうな子ども』
2、『現在の自分』と『過去の自分』
3、『つまらない主人公』と『ポケモンシャツを着てワクワクしてる主人公』
【反復】
1、朝の家の中の着替え(最初はつまらないいつものルーティンな朝できっちりして時間通りだけどつまらない、2回目の朝はワクワクして楽しくて遅刻しちゃう)
2、子どもとの出会い(最初はバスの中から遠目に見下ろしている、2回目は同じ目線で話す)
そして、撮影面での反復と対比がこちらです。
1回目の着替えはつまらなそうで、2回目はワクワクして楽しそう。(表情、照明で変化をつけています)
ルーティンの朝と、ワクワクして遅刻している朝。(同じカメラアングルで映すことで、変化を分かりやすくしています)
楽しい子ども時代の回想シーンは暖色系に、何かが物足りなく寂しい現在は寒色系に。
同じ出勤シーンも、寒色系と暖色系の変化をつけることで対比を明確にしています。
1回目は窓越しで見下ろして距離があった男の子との出会い。
2回目は近づいて、しゃがんで目線を合わせて対等になった出会い。
「このブランディングムービーを見る視聴者に『小さい頃友だちと一緒にポケモンにハマっていたな』『あの頃が懐かしい』と感じ取っていただくためにも、『子どもの頃の純粋な好きという気持ちを、大人になって思い出す』という誰しも経験できる普遍的なストーリーを描きたかった。
そして、言語化せずともストーリーを通じて主人公の心境の変化、そして好きという気持ちを肯定するというメッセージが伝わるように、同じシーンを繰り返して変化を表現する反復と対比の構造を用いました」
本作は、ポケットモンスター赤・緑世代にしっかりと刺さるように、撮影スタッフや楽曲制作者など制作チームをポケモンが好きなメンバーで構成。さらにカメラマン、照明、助監督、衣装メイクなどは映画をメインとしているメンバーで揃え、ドラマとしてしっかり見られるものになるような工夫もしていたそうです。
完成した映像をご覧いただいた視聴者からは、想像以上に『泣けた』『グッときた』というコメントが多くあったのだとか。
泣かせようと思って作ったストーリーではないにもかかわらずそのようなコメントで溢れたということは、視聴者に伝えたいメッセージを映像を通して伝えられるような“技術”をストーリーの構造に落とし込んでいたからだといえそうです。
©Pokémon. ©Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc. ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
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