今回ご紹介するのは、株式会社テレビ岩手様と制作したドラマ「いわて漆紀行〜うるしびとが紡ぐ伝統〜」の実績について。テレビ岩手様からお預かりしたのは、「“漆”の価値をわかりやすく伝えるドラマを制作し、より多くの人に漆や伝統技術の大切さ、素晴らしさを認識してもらいたい」という想い。
テレビ岩手のプロデューサーとして多くの番組制作を手掛ける丸谷様(以下敬称略)をお迎えし、本作品で監督を務めたディレクターの安田、プロデューサーの美谷島を交え、対談形式でドラマ制作への想いをお伝えしていきます。
「相談段階で熱心に話を聞いてくれていたことが嬉しかった。」
(テレヒ岩手プロデューサー 丸谷)
ーー丸谷さんにとっても初めてのドラマ制作とのことでしたが、どうして今回ドラマを用いてコンテンツを制作しようと考えたのでしょうか?
丸谷「これまでは、毎年ドキュメンタリーを作っていたんですよね。じゃあ今年はどうしようかという話になった時に、「これまでとは違う、“ドラマ”という形で漆を取り上げられないか」という案が出たんです。ドラマで表現できれば、従来のコンテンツとは違う角度から“漆”の魅力を伝えられると考えたことがきっかけです。」
ーーそうだったんですね。ではそこから、どのようにエレファントストーンのことを知ったのでしょうか?
丸谷「ドラマを制作するために色々と情報収集していて、エレファントストーンさんのセミナーを聞いたのがきっかけで知りました。」
美谷島「その翌日に、僕から丸谷さんに連絡させていただいた気がします。」
丸谷「そうですね。私としても、エレファントストーンさんのセミナーを聞いたものの、「さて、ドラマを作るにはそこから何をすれば良いのだろう」と迷っていたので、はじめにお電話をいただき心からありがとうございます、という気持ちでした。最初の電話で「漆や伝統産業をドラマで物語として伝えられないか」とご相談させていただきました。」
美谷島「私としては丸谷さんにドラマ制作についてお伺いしたときから、この制作をすごくやりたかったんですよね。自分自身ドラマを作れる機会もそうそうないですし、そもそも東北の方と繋がることも普段ないじゃないですか。
なので、弊社のセミナーを視聴していただき、ご相談いただいてからすぐに制作メンバーを集めて相談しました。そしたらみんな「漆のドラマやりましょう!」と、やる気がみなぎっていたと思います。」
(エレファントストーンプロデューサー 美谷島)
ーーちなみにですが、相談した頃はエレファントストーンへドラマ制作の発注を決めていたのでしょうか?
丸谷「はじめの頃はまだ決めていなかったです。ですが、相談段階から私たちの希望や考えに沿って、内容をよく考えてくれていたと思います。
ドラマの方向性について簡単に相談している時も、「これはできないですね」と言われることがあまりなかったです。こちらの想いを汲んだ上で、「こんな企画はどうですか?」という風に、皆さんの前向きな熱意がすごく伝わってきていました。そういった様子を受けて、良い感じに制作が進むのではないかという期待を込めて、正式にご依頼させていただきました。」
美谷島「実際、制作フローもよく知らない東京の会社に発注する時って不安とかはなかったですか?」
丸谷「美谷島さんがはじめから熱心に相談に乗ってくれていたので、話していて「お任せして大丈夫だ」と感じていましたよ。今までドキュメンタリー番組の制作などを新規の会社に依頼することってあまりなかったので、最初は同僚に心配されていましたけどね。」
本作のシナリオに辿り着くまで
(写真右:エレファントストーンディレクター 安田)
ーー美谷島を通じて、エレファントストーンの制作メンバーの熱意が伝わっていたのですね!では、シナリオが決まるまではどのような流れだったのでしょうか?
安田「正式に発注いただいた後の初回打ち合わせで、ドラマを通して必ず伝えたいところなどをヒアリングさせていただき、まずは企画案を提案しました。
今回の宿題としてあったのが、漆そのものや職人の姿、さらに漆器が出来上がるまでをドラマ(=物語)として面白く伝えることでした。
そこでドラマの設定を、「東京のテレビ番組のリポーターが岩手の漆産業を取材する」というシナリオにしました。その設定にしておけば、ドラマ内ドラマのような形で、東京のテレビクルーが取材している映像を、ドラマ内でそのまま漆の説明パートとして使えるのでは…?と思ったんですよね。例えば、急にリポーターから漆の説明が始まっても、「テレビ番組のリポーターたちが漆を取材している」という設定があるので、自然と話を繋げられるんですよ。ここまでの流れが決まってからは、シナリオに細かい設定を肉付けしていく感じでしたね。」
美谷島「私としては、「東京のテレビ番組制作のクルーが、岩手に漆の取材に行く」というドラマパートの企画を聞いて、すごく良いなと思いました。よくこのストーリーに辿り着いたなって。漆だけでなく、職人さんを含めた“伝統産業”を伝えることが大事だったので、このドラマのシナリオであればそれも伝えられるって。」
安田「竜口(弊社ディレクター/シナリオを担当)がシナリオの初稿を書き上げた時、「これならドラマの中で漆のことをちゃんと伝えられる!」と、今回の企画が上手くいくと確信しました。」
本作のシナリオはこちらの記事で詳しく解説しています『ドラマ「漆をめぐる物語」のシナリオに迫る 』
「制作者の意思や考えを尊重してくれていた」
安田「シナリオの調整を進めていくとき丸谷さんも意見をくださるんですけど、いつも制作者である僕たちの意見を信じて、尊重してくれていたのがとても印象的でした。」
美谷島「シナリオ作成以外のところでもそうなんですけど、丸谷さんはアイデアや考えを伝えてくださるとき、絶対最後に「それじゃなくても大丈夫です、このコメントは絶対ではなく私の所感ですので」と文言が入っているんです。絶対にこっちの意思とか考えを尊重してくれていて、エレファントストーン側の良さを引き出そうとしてくれていましたよね。
丸谷さんに聞いてみたかったんですけど、私たちは今回初めて一緒に制作したじゃないですか。初めて一緒に仕事をする会社が良いシナリオを書いてくれるのか不安もあったと思いますが、シナリオが完成したときどう思われましたか?」
丸谷「特に不安はなかったですよ。企画内容などについても、本当に丁寧に打ち返してくれていましたし、力を入れて制作に取り組んでくれているのは打ち合わせなどを通じて感じていました。
シナリオについてもこちらの要望を上手に盛り込んでくれていましたよね。漆の採取シーンだったり、漆の木の特徴を説明したり、さらに漆器になるまでの工程を映したりと、しっかり場面設定をしてくれているという印象でした。あとは絵コンテのイラストも雰囲気が柔らかく、その雰囲気含め印象はとても良かったです。
正直僕もドラマ制作は初めてなので、シナリオの内容に関しては分からないところがありました。なので、シナリオについては今までやってきた普段のテレビ番組の制作経験と、素人というか、一般視聴者に近い感情や感覚で確認していく感じでした。
エレファントストーンさんと会話する中でも、美谷島さんだけでなくチームを上げて全員でこの制作に向き合ってくださっているのを感じていました。シナリオについても、その姿勢を信頼してお任せしていました。
シナリオは撮影ぎりぎりまで調整していましたよね。「時間がないからこれでやるんだ」という感じではなく、すごくこだわって、最後まで少しでも良い形をずっと探し続けてくださっていた印象があります。」
安田「本当にギリギリまで調整していましたね。笑 映像制作のプロとしても妥協したものを出すわけにはいかないっていう気持ちもありましたけど。」
「一つひとつにこだわって、制作に没頭しているのが印象的だった」
ーー撮影当日のことをお伺いできればと思いますが、撮影で印象的なことはありましたか?
美谷島「撮影の時も、丸谷さんがエレファントストーンの制作者視点で接していただいていたことが印象的でした。普段、撮影にお客様がいらっしゃる時って、キャストや演技をみられていることが多いんですよ。でも丸谷さんは、制作スタッフ一人ひとりの仕事ぶりや様子をみられていたのが印象的でした。」
丸谷「美谷島さんや安田さんとはやりとりをしていたので、ある程度人となりはわかっていました。でも他のスタッフさんはほとんど初対面だったので、どういう人なのか観察してみたり、話しかけてみたりしていましたね。制作の瀬戸口さんとかもシャキシャキしていて、見ているととても面白かったですよ。
僕が撮影で印象的だと思ったことといえば、皆さんがワンカットずつにこだわっているところでしょうか。通常ならもっと機械的に進んだり、段取り重視で進めたりするところでも、ワンカットずつにこだわりを持って撮影しているというのは感じました。
正直なところで言うと、初めて一緒に制作するので映像として出来上がるまでは、エレファントストーンさんがどんな画を撮ってくれるのかわからないじゃないですか。でも皆さんの様子を見ていて、こだわりを持って撮影してくれていることを実感していましたし、仕事に対する姿勢や熱量はすごく印象に残っています。皆さんが没頭して撮影している姿をみて、この人たちは結構突きつめたところまでやろうと思っているんだって。」
「ドラマで届けたかった想いが多くの人に届いていた」
ーー撮影当日も大変だった中、一つひとつこだわって撮影されていたんですね。実際に完成したドラマについてと、周囲の反響を受けてどのように感じましたか?
丸谷「私としては、新しい形で漆を伝えられるいい作品になったと思っていたのですが、撮影に協力いただいた皆さんからの反響はどうだろうと少し気になっていたんですよね。内心少しドキドキしていました。ですが、取材相手全員が「良いものができて良かったです」と喜んでくれていたのですごくほっとしたというか、安心しましたね。二戸市の方からは、「今までにない形で漆を紹介してもらえて良かったです」と、絶賛の声をいただきました。
社内の関係者も、「テレビ岩手の番組では見たことがないような雰囲気の映像になっていてすごく良かった」と言ってくれたので嬉しかったですよ。」
美谷島「たくさん嬉しい言葉をいただきましたよね。今回の制作では、視聴者アンケートで視聴者の反響を知ることができたのが個人的にはすごく良かったなと思いました。
中には思ってもいないような感想もありました。「不登校になった息子に見せてあげたいです。人と人とが出会うストーリーが今後息子にも起きてくれると良いなと思いますし、今後の希望になりました」というコメントがあったと知り、「映像がこんな形で届くんだ」と、個人的にはとても印象的で嬉しかったです。」
安田「シンプルに反響がわかるって良いですよね。ふわっとした自己満ではなく、「良い作品を作れたんだな」っていう確実なものになりますし、実際に良いものを作れたという事実が自分の中に残るのが嬉しいですね。」
丸谷「岩手でも時々テレビ番組やニュースで、漆について紹介はしているんです。でも今回、ドラマという新しい形で漆を紹介したことで、「ドラマをみて初めて漆掻きのことや方法を知りました」「子供達にも見せてあげたいです」といったように、漆を知らなかった人にも知ってもらえたというのが良い結果だったのではないかと思います。
テレビ番組に感想を寄せてくれる人って本当に一部じゃないですか。きっとその後ろには、同じように共感してくれている人がたくさんいるはずなんです。そう考えると、本当に多くの方に届いたんだなと思います。」
「僕の中で一番記憶に残る制作を一緒にできたことが嬉しかった」
ーー制作全体を振り返ってみていかがですか?
美谷島「本当に貴重な機会だったと思います。いろんな方を巻き込んで、たくさんの方の協力があって、その皆さんの好意にお応えしたいという気持ちや、良い作品にしたいという気持ちが強かったです。その中で、今回丸谷さんと一緒に仕事ができて良かったですし、見ていただいた人へもポジティブな影響を与えられたというのはすごく嬉しいです。」
安田「丸谷さんも積極的に僕たちの制作に協力していただいて、本当にありがとうございますというところですね。何より、本当にこの企画を相談しに来てくれたというか、こういう機会を作っていただいたというのが非常に嬉しかったです。制作過程もよくわからない東京の制作会社に声をかけてくれて、かつそこから私たちを尊重して、信頼をおいてくれて、一緒にドラマを作れた。僕としては、昨年度の中で一番大変だったけど一番楽しくて記憶に残る制作でした。」
丸谷「私としても、昨年度の自分の仕事の中で一番記憶に残るものになったと思いますし、最終的にエレファントストーンさんに頼んで良かったなと思いました。こちらの依頼に対して、エレファントストーンさんのこだわりたい、良い作品を作りたいっていう想いはとても伝わってきました。仕事に対する姿勢みたいなところをずっとみていて、僕も刺激を受けましたね。その姿勢を学ばせてもらい、自分の仕事で活かせたらなと思いました。
最初心配していた同僚も、最後は「良かった」と言ってくれました。本当にこちらの信頼も裏切らないというか、そういう仕事をしていただいたなと思っています。」
安田「ありがとうございます。余談ですけど、丸谷さんとの打ち合わせは毎回楽しかったです。お互いが一緒に良いもの作ろうと、同じ熱量で話しながら進められたのが楽しめた理由だと思います。」
対談でのお話や皆さんの様子から、互いに歩み寄り、同じ気持ちで制作に向き合っていたことを感じることができました。だからこそ、一番記憶に残る制作に繋がったのではないでしょうか。また、テレビ岩手様との新しい作品作りや、新しい挑戦を楽しみにしています。