JICA海外協力隊は、開発途上国で現地の人々と共に生活し、同じ目線で途上国の課題解決に貢献する活動を行っています。このプロジェクトストーリーでは、『JICA海外協力隊・帰国隊員紹介動画「世界で見つけたわたしの物語」』の制作について、JICA東京センター様が映像で叶えたかった想いを、本プロジェクトに携わった6名の対談形式でお伝えしていきます。
▼独立行政法人国際協力機構(JICA)東京センター様より
▼エレファントストーンより
JICA東京センターの皆様が考える「JICA海外協力隊」とは
ーーはじめに、JICAのみなさんが考える「JICA海外協力隊の意義」についてお伺いできますか?
八星:JICAの中で最も有名な事業だと思っています。教科書にも「JICA海外協力隊」と載っているし、JICA自体を知らなくても協力隊を知っている方は多いと思います。大学卒業後に国際協力に取り組んでみたい、企業経験を積んだ後にその経験やスキルを途上国で活かしたい、と考えた時の一歩目のチャレンジとしてよく取り組まれるものでもあります。
技術協力や資金協力等ダイナミックな国際協力プロジェクトに比べると、協力隊の活動は一人ひとりが2年間という任期の中で取り組むものなのでインパクトは小さく見えるかもしれません。しかし、現地の人々と共に悩み、取り組む経験はその後その地域の学びや自立の一歩につながり、また途上国の人たちが隊員を通して日本を知り好意を持つ一歩になる。そんな事業なのかなと思っています。
徳田:協力隊活動のことを開発援助、国際協力と言っていますが、実際に協力隊が途上国に行って変えられることは本当に限られていると思います。ですので、基本としては隊員一人ひとりから生まれる相互理解や共生が重要だと私個人としても思っています。
佐谷:私自身も協力隊に参加していたのですが、単純な旅行や留学とは本当に違うものなんです。先にお二人がお話しされていた「相互理解」であり、「国際協力の第一歩」であるということを、私自身の経験から身に染みて感じています。
そして協力隊は、“世界と繋がる”というところが一番大きいと思っています。私は協力隊として中米のホンジュラスに2年間行っていたんですけど、今年の4月に2年ぶりに現地に戻ることができたんです。自分が現地で2年間生活していたからこそ、現地の人たちや環境の変化を感じられて、その変化を自分ごととして考えられる。そんな人たちが地球の反対側の国にいるっていうのが、協力隊ならではの宝だと今も感じています。
“隊員の帰国後”のことは、JICAとして発信しきれていなかった
ーー今回はなぜ帰国後の隊員にフォーカスしたプロジェクトを発足することになったのでしょうか?
佐谷:私の中でまず思ったことは、帰国後も幅広く活躍する隊員をもっと紹介したいということでした。協力隊そのものを知っている方は多いのに、帰国した隊員がその後何をしているのかという点が見えづらいんですよね。協力隊経験者、そしてJICAで働いていても、「帰国後の隊員をJICAとしてもっとPRできるんじゃないか」と感じていました。
実際JICAのSNSなどを見返すと、帰国隊員に特化したコンテンツって本当に限られているんです。応募勧奨のための記事などはたくさんあるのですが、帰国後の変化やキャリアにフォーカスしたものがなかったので、それを若い人たちに気軽にみてもらえる“動画”という形で紹介したいと思っていました。
徳田:私としては、「せっかく良い事業をしているので、それを多くの人に知ってもらいたい」という想いがありました。これまでJICAで上げてきた動画は押し並べて行政紹介の側面が強く、一般の方に対してのアピールに欠けるものが多かったんです。そこに一石を投じて、もっと魅力的な動画を制作し、多くの人にみてもらうことで、JICAの中でも広報のやり方を変えていくきっかけになれば良いなと思っていました。
映像で目指したかったのは「スタイリッシュな表現」
ーー魅力的な動画にしようとのことでしたが、ご相談時に「スタイリッシュな表現」という文言を企画書に記載いただいていたのは、具体的にどういった意味合いだったのでしょうか?
佐谷:「スタイリッシュな表現」は最後に徳田さんが入れた言葉で、当初私の方で言葉にはしていませんでした。ですが私の中でも先ほど徳田さんが言った通り、これまでのJICAの動画はあまり身近に感じられず、どこか他人事に捉えられてしまう印象だなということは考えていましたね。
協力隊って意志のある方なら誰にでも道は開かれているものなので、もっと多くの方に「自分も参加して良いんだ」って思ってもらえるような印象を与えたかったんです。それが“スタイリッシュ”という言葉に込めていた意味で、これまでの「JICA」らしくない動画を作りたいという気持ちがありました。
ーースタイリッシュな表現について、エレファントストーンのお二人はどのように感じましたか?
奥野:すごく印象的だったのが、徳田さんがキックオフミーティングで仰られた「渋谷109に来るような若い方が協力隊に参加したくなるような映像」というワードです。福岡と僕の中でも衝撃がありましたね。そういう心意気で作らないと…と背筋が伸びた記憶があります。
福岡:そうですね。映像を作っている我々も意識すらしないような進歩的な考えをご提示いただいたと思いました。普段の制作では、ある程度お客様のご要望もあったりして、いかにそれに沿う形でクリエイティブを考えていこうかと、どうしても思考が固くなってしまう部分があるので、そういった枠にハマらない言葉をいただけて素直に嬉しかったですね。
スタイリッシュの意味合いは企画書の中からも感じ取れる部分があり、我々としても現状のJICAさんの映像とは印象を変えたいなとは思っていました。とはいえエンタメの動画ではないので、いかに正道を守りつつ挑戦していくかみたいな部分のさじ加減は慎重に検討していましたね。
奥野:スタイリッシュさに関しては、JICAさんがこれまで作られてきた動画の見応えや、ドキュメンタリーとしての構成の緻密さといったところで既に感じていた部分でもありました。そこにどう新しさをつけていくのか、というのはだいぶ考えていました。
僕も短期間ですが海外でボランティア活動をしていた経験があって、先ほど仰っていたように、現地で自分ができる範囲には限界を感じましたし、それ故の歯痒さや難しさを感じたこともありました。なので、はじめに相談要件をみた時、そういった葛藤の部分を含めて隊員の想いや活動を等身大で描きたいと率直に思いました。
あとは海外に行って違う言語を使って、違う文化に出会い過ごしていくっていうのは、自分の殻を破らないといけなくて少し躊躇いや恥ずかしさもあると思うんです。でも、そういった現地の人や文化との出会いがやっぱり楽しいことでもあって。そのポジティブな部分をイラストデザインなどで表現していきたいという想いははじめからありましたね。
「隊員のエッセンスを凝縮したインタビュー映像になったと思います」
ーー実際の制作過程で印象的だったことはありましたか?
佐谷:インタビュー中の奥野さんが被取材者に向き合う姿勢がとても印象的でした。撮影中、被取材者の方が言葉に詰まってしまった時があって、どうすれば話を引き出せそうかを奥野さんがじっくり考えられていたんですよね。タイムマネジメントをされていた福岡さんから「そろそろ進めましょう」と声かけがあったのですが、奥野さんが粘り強く質問を言い換え、相手にプレッシャーを与えない優しい問いかけをしてくれたおかげで、最後は被取材者ご自身も納得のいく言葉が見つかり笑顔でお話されていました。
私としては奥野さん自身が納得されるまで悩んでいてほしかったというか、企画当初からずっとそうやって考えてくれていたんだろうなと思って嬉しかったですね。
徳田:奥野さんが撮影の時に色々な質問を投げかけて、彼らの中にある思い、視聴者に伝わる言葉を導き出してくれていたことが印象に残っています。単純に少し質問するだけだと、今回のようにエッセンスが凝縮された内容にはならなかったと思うんです。皆さんが心の中で思っている一番のポイントを上手く引き出し、彼らの話を上手くストーリー化してくれたので見る人に対しても説得力のある映像になったんじゃないかなと感じています。
福岡:かねてから飾らない言葉をいかに引き出せるかが勝負だ、というのは奥野ともずっと話していたのでその意図を汲み取っていただいてありがたいですね。
八星:手を抜こうと思えばコストカットできるところも、すごい手間や時間をかけて、こちらが望むことを考えて世界観を実現させていこうとする姿勢に私は感激していました。私たちの話を聞いてくれた上で、奥野さんの「こういった想いがあるからこれを伝えたいんだ」という想いがとても伝わってきましたね。
そして福岡さんがプロデューサーとして、的確かつスピーディーに判断して、こちらのリクエストや質問に対応くださったので、制作の進行もすごく安心していました。はじめは名前も知らない制作会社だし、どうなるんだろう…と思っていましたが、制作がはじまると不安なく進められたと思っています。
「多くの人に届けるために。」 広報業務の話
ーー今回は映像制作とあわせて広報業務もお任せいただきました。広報業務として、YouTubeでの再生回数5万回が当初の目標として掲げられていましたが、これはどのように決められたのでしょうか?
徳田:数字については、私の長年のYouTube研究の成果というか(笑)、大体5万回はいくんじゃないかという仮定と、知り合いのYouTuberの方へ相談して5万回という数字にしました。
佐谷:映像制作だけでなく、広告戦略もお願いすることってこれまでほとんどなかったんですよね。なので映像のイメージはできても、広告戦略をどう考えていくべきか私自身も想像しづらい部分でした。
協力隊に興味がある方はもちろんですが、今回のターゲットは「JICAや協力隊を知らないような方達」も含めたより多くの人に届けたいと思っていたので、その中でエレファントストーンさんからは色々な角度から広報業務についてのご提案をいただき、広告戦略として要望にもマッチしていると感じましたね。
福岡:広報業務まで含めると、これまでの知見や現在OTAKEBIという広告運用サービスも展開しているので、我々であれば何かしらのお手伝いができるんじゃないかっていうインスピレーションはありました。広報業務は広告担当の登とも話した部分で、一緒に今回の企画と広報戦略の施策について落とし所を見つけていった感じでしたね。
登:そうですね。JICAさんからは「今、日本で仕事に打ち込んでいる人たちがこの動画を見て、JICAや協力隊の存在を知って、世界に出ていくきっかけに繋げていきたい」という想いをお預かりしていました。YouTubeへの広告配信を設定していく際には、スキップされずに興味を持続してみてくれるのはどういったターゲットだろうとか、どんなYouTubeチャンネルを見ているんだろうっていう部分を深掘りして考えていきましたね。今回の企画であれば、海外出張や国内外を問わないボランティアに興味がある人には響くだろうなと思いました。
八星:YouTube広告配信含め、ターゲット戦略や提案いただいた他の広報戦略を色々と試すことができました。今回の各施策を通して、何が効果的なのかという、選び方や打ち出し方がわかったのですごくいい経験をさせていただきましたね。今回はターゲット選定を踏まえ、御社のYouTubeでの広告運用(OTAKEBI)が一番ヒットしたなと感じました。
徳田:YouTubeの広告配信が終わった時には10万回再生になっていて、そのうち広告由来の再生回数が9.5万回ほどでした。我々もJICA内で相当広報活動をしたのですが、結局それは数千回再生しか伸びなかったんです。どんなに良い動画を作っても、広報しないと再生回数は伸びないんだなと非常に厳しい現実を学びました。今後こういった動画作成をしていくのであれば、動画を作るだけでなく、それを見てもらうための広報の道筋まで考えていくことが重要だと感じました。
本プロジェクトを振り返って
ーー今後の広報活動において、本プロジェクトを通して何か変化はありそうでしょうか?
徳田:我々も広報記事を書くことがあるのですが、定型的でどこかルーティンのようにやってしまっている部分もあり、読者目線を強く意識しながら作りきれていないと感じています。
視聴者を意識した動画を作ることで、JICA事業の見え方がこんなにも変わるということを実感をもって学ぶことができました。これをきっかけにJICAの広報もより視聴者にとって魅力のあるものになっていけばいいなと思います。
八星:今回は隊員だけじゃなくて、その周りの方々を撮っていただけたのがありがたかったですね。協力隊って一人で行くようですが、その周りには応援してくださる人がいるし、帰ってからの活動を受け入れてくださる方たちがいるから帰国後も活躍できるんだってことを改めて感じました。
余力があったら続編として、埼玉県版や他の県版を作ったり、ご家族の声や40代・50代の隊員にフォーカスを当てたものだったり、あとは隊員を送り出す親御さんたちからの一言シリーズなんかを作っていきたいなと思いました。
佐谷:隊員本人だけでなく周りのご家族や友人、同僚などの話を聞く機会ってなかなかなくて、今回JICAのオフィシャルな映像として等身大の隊員を切り取れたのは新しい部分かなと思いました。映像公開後、沖縄で隊員のご家族が集まる会があったのですが、そこでも今回の映像を流していただきました。
ご家族の声が入っている広報媒体はこれまでなかったので、そこも大きな変化でしたし、だからこそ日本国内各所のJICAイベントで動画を活用いただけていると思います。
ーーエレファントストーンのみなさんは今回の制作を振り返っていかがでしたか?
奥野:ご本人だけで描くと「協力隊の〇〇さん」になってしまうところ、ご家族や同僚の方が出演することで、「娘としての〇〇さん」「同僚としての〇〇さん」っていういろんな視点から立体的に隊員の方々を映し出せたと思います。そこが見ている人にもちゃんと届いているのではないかと思います。個人的には嬉しかったというか、やって良かったと思うポイントでした。
僕自身国際協力っていう部分にはずっと関心があり、何かしらの形で携われたらと思っていたので、今回憧れていたJICAさんのお仕事をさせていただいたのがとてもありがたいなと思っています。協力隊の方たちはやはりエネルギッシュで、ご自身と誠実に向き合っているのが僕の中でもとても影響を受けたところでした。今回のインタビューではある意味背中を叩かれたと思っていて、これからも僕自身、色々と頑張っていきたいと改めて思いましたね。
福岡:先日の展示会出展で「JICAさんのお仕事されているんですね。立派ですね。」って声をいただいて素直に嬉しかったです。それと、JICAさんの撮影の際は総合演出的な観点からも奥野にインタビュアーをまかせるのがベストと考えて、そうしていたんですけど、実は自分でもやりたい気持ちを抑えていて。その温めていた思いを先日別の撮影で実現できたんですよね。当時の隊員撮影を思い出しながら取り組んだらその仕事もすごくうまくいって。そういう点でJICAさんとのお仕事は自身の幅を広げてくれるきっかけにもなりました。
そしてみなさんや被取材者さんのお話を受けて、固定観念に囚われず他者や文化を受け入れる柔軟性と、しっかりと“自分”を持たれている部分の両側面をとても感じることができました。この出会いと繋がりに感謝したいなと思っています。
登:今回、広告運用のメイン担当として、自分の中でも何が一番なのかとか色々考え、社内メンバーとも相談しながら、広告運用の他にプレスリリース文の作成などもさせていただきました。JICAの皆さんともすり合わせをしながら、広報施策に携わることができたと思います。最終的には、YouTube広告では10万回以上の視聴回数を達成し、当初目標とされていた5万回以上の再生数を超える結果を出すことができました。今は色々なプロジェクトに携わらせていただいておりますが、今回のプロジェクトは僕の中でも原点になった案件だったなと感じています。