岩手県二戸市を舞台とし、コミカルなラブストーリーで「食の多様性」を伝えるドラマ『彼女はヴィーガン』。制作時にお預かりしたのは「地域のフードダイバーシティ対応への取り組みを伝えるだけでなく、より多くの人が食の多様性について考えるきっかけをつくりたい」という想いでした。
このプロジェクトストーリーでは、株式会社 南部美人 社長室副室長 兼 企画財務部課長の田口様、株式会社テレビ岩手 報道制作局 制作部担当部長 兼 コンテンツ戦略室 担当部長の丸谷様(以下、敬称略)をお迎えし、ドラマ制作に込めた想いを伺いました。
日本の食の多様性推進の足掛かりをつくりたかった
ーーはじめに、今回の映像制作に至った経緯をお伺いできますでしょうか?
田口:南部美人、二戸市が行っているフードダイバーシティ対応への取り組みを、地域を超えて多くの方に知っていただき、活動の幅を広げたいと考えたのが最初のきっかけです。
二戸市内でこの活動を進める中で、特定の地域だけでなく日本全体で進めていくべきだと考えるようになったんです。ただ、こうした活動の広め方について知見があまり無かったので、テレビ岩手さんにご相談し「どんなことができるかな」と一緒に考えていただきました。
その際に活動を広める手法の一つとして映像制作をご提案いただき、「そういう方法もあるのか」と乗っからせていただいた形です。
※フードダイバーシティとは、食文化、宗教、健康上の理由により食生活や料理の取捨選択を行うケースが多様に存在するということを意味します
ーー食の多様性を推進していることやその取り組み自体の大切さを、地域にとどまらず日本全体に広めていきたいという想いをお持ちだったんですね。
田口:そうですね。世界では当たり前となっている食の多様性の考え方も、日本ではまだまだ浸透していないと思います。実際、弊社の代表は、お酒の輸出のために外国をまわっていた際、日本と比較してヴィーガン対応のお店が充実していたと言っていました。
世界中でヴィーガンやベジタリアンの方に対応したお店があるのに、日本だけそこに対応できないわけではないと思いますし、今後外国人観光客の日本への誘致に力を入れていく際にこのフードダイバーシティ対応へ向けた取り組みは必要になると考えています。
「食べたいものを選べない」ことで困っている人を放置できないですし、そもそも「困っている人がいる」ということを知らなかった方がそれに気づくきっかけをつくりたいと思っていました。
※ヴィーガンとは、完全菜食主義の方を指します
※ベジタリアンとは、菜食主義の方を指します
映像を通してみんなの心に小さな問題提起を生む
ーー「フードダイバーシティ対応に向けた取り組みを広める」という目的の中で、今回制作する映像にはどんな期待をしていただいたのでしょうか?
丸谷:「食の多様性」というとテーマとしてやや難しい印象があるので、とっつきやすく、分かりやすく伝わる映像にしたいと思っていました。
実際、フードダイバーシティ対応に向けた取り組みの一環として講演会を開催していることもあるのですが、そうした場面だと「世界にはこれだけのヴィーガンがいて…」「ハラールも含めると何%で…」というように説明が多くなりがちなんです。
もちろんそういう側面も大切ですが、そうは言っても「食の多様性とは?ヴィーガンとは?」ってピンとこないことも多いと思います。なので今回はその切り口を少し変えて、よりカジュアルに楽しく「食の多様性」を感覚的に捉えてもらえる映像をつくれたら良いなと考えていました。
田口:今回は映像を通して、食の多様性について1人でも多くの人に知ってもらい、難しいことじゃないと気づいてもらうことが重要でした。そういった意味では堅苦しくなく、すっと感情移入できるような映像にしたいと思っていましたね。
ーー映像をみた人に楽しみながら知ってもらうことが重要だったんですね。
田口:そうですね。ただ楽しんでもらうだけでなく、楽しんでもらった先に“食の多様性って大事だな”と気づきを与えたいとも考えていました。
「ああ、そういう世界ってあるんだな。自分にも起こり得るかもしれないし、そういう人がいるんだな。困っている人もいるんだな」って。「こうした取り組みって案外ハードルが高いわけじゃないかも。違うメニューを食べたい人もいるんだ」と、心に小さな問題提起をしてもらえるような映像にしたいなと。
さらに、この映像をお店側の人にも見てもらって変化の重要性を感じてもらえたら1番良いですね。お店側がヴィーガン料理を開発すれば、ヴィーガンの方がヴィーガンではない友達を連れて来る可能性がある。通常のメニューに加えてヴィーガン用のメニューがあるだけで、お客さんにとってもお店にとっても選択肢が広がる。そこに映像を通して気づいていただけたら良いなと考えていました。
みんなの選択肢を広げるという意味で「私はお肉食べる」「私は野菜を食べる」そう選ぶことができる環境をつくる第一歩となる映像にしたかったです。
企画・撮影・完成した映像、全てに対するこだわりにワクワクした
ーー今回はラブストーリーのドラマ企画をご提案しましたが、こうした企画ができることは想定されていたのでしょうか?
田口:「まさかラブストーリーがくるなんて!」と驚きました。ちょっとワクワクしましたね。笑
先ほどの丸谷さんのお話にもあった通り、フードダイバーシティを広める講演会などの活動では、形式的に言葉で説明して理解してもらうことがほとんどでした。ただ、言葉だけで理解してもらうって難しいなと実感していましたし、何よりワクワクしてもらって、能動的になってもらえることはなかなかないと思います。
だからこそ、ラブストーリーの企画をいただいた時は「こんな角度から入り込むフードダイバーシティもありだな〜」と嬉しかったです。
ーー企画の段階からワクワクしていただけていたのが嬉しいです。今回は二戸市にお邪魔して4日間撮影させていただきましたが、現場での気づきや印象的だったことはありましたか?
丸谷:以前エレファントストーンさんと一緒にドラマ制作をさせていただいた時にも感じたところですが、一つひとつにとてもこだわってくれるところが印象的でした。
今回も、ディレクターの安田さんの、ワンカットに込めるこだわりがすごいなと思っていました。一つのシーンに対して「どうしたらもっと良くなるか?」をすごく考えてくれて、色々なアプローチで撮ってくれるんですよね。プロデューサーの美谷島さんはどんな注文をしても嫌な顔をしないですし。笑
いつも「こうしたらどうでしょう?」とより良くなる方法を提案してくれるのがありがたかったです。
※丸谷様とは昨年制作したドラマ「いわて漆紀行〜うるしびとが紡ぐ伝統〜」でご一緒しています。当時のエピソードはこちらからご覧ください
田口:私は映像の撮影現場自体が初めてだったので、「へぇ、そうやって撮るんだ!一つ撮るのにこんなにこだわってくれるんだ、そりゃ時間がかかって当然だな」と素人目線で色々な発見がありました。
今回の映像には実際のお店の人をはじめとした地元の人たちが登場しているのですが、どのように撮ればぎこちなく見えないように映るか、悩んで考えて演出してくださっていたのがとても印象的で。どうしてもぎこちなくなってしまいがちだったシーンの撮影でも、撮影チームの皆さんは動じることなく、「次はこうやってみましょうか?」と焦らせることなく対応してくださったのがありがたかったです。
撮影チームの皆さんは何よりもフレンドリーで、楽しい合宿のような現場でしたね。皆さん、年末のバタバタした時期の中でもしっかりとコミュニケーションをとってくれて、良いチーム感を感じながら制作を進行できたなと思います。今考えると大変だったのですが、当時はそれよりも楽しさが勝っていました。
ーー完成した映像をみた時の感想を伺いたいです。
田口:あの時撮影した映像がこんな風に残るんだ、と驚きました。こんなに綺麗に映るんだ!と。何気ない二戸市の風景がこんなに綺麗だったんだ、いい街だな、って再確認できたのもこの映像があったからこそですし、撮影の段階からこの完成形をイメージしていたんだ、と思うとディレクターさんってすごいなとびっくりでした。笑
映像の本題でもあった食の多様性の大切さについての訴求も、綺麗な映像とやわらかなストーリーで描かれていて、とてもお気に入りです。みた後にどこかほっこりするドラマですよね。
丸谷:そうですね。今回は、4日間で映像に必要な画を全て撮り切る必要がある、というかなりタイトなスケジュールだったので、無事こうした形で映像が完成してまず安心しました。
ドラマの難しいところは、撮った映像素材を上手く活かすしかないという部分なんですよね。撮ったもので勝負しなければいけない。だからこそ、そのタイトな中で無事撮り終えて、食の多様性の大切さを感覚的に捉えてもらえる映像ができたことが嬉しかったです。
食の多様性の大切さをまずはみんなに知ってもらうところから
ーー今回は映像制作とあわせて広告配信もされていたと思います。広告配信をされた背景にはどんな想いをお持ちだったのでしょうか?
丸谷:やはり南部美人さん等が進めているフードダイバーシティ対応への取り組みを、より多くの人に知ってもらいたい、という想いがありました。せっかく良い映像をつくってもつくって終わりでは駄目で、映像をみて知ってもらうことが第一のゴールです。
今回は特に南部美人、二戸市が行っているフードダイバーシティ対応への取り組みを、地域を超えて多くの方に知っていただくこと・食の多様性について考えるきっかけを生むことを目標に映像を制作しました。そのため、地域の取り組みを伝えるという点においても、日本が大切にすべき考え方(=食の多様性)を伝えるという点においても、広告により配信先を増やして多くの人に伝えることが重要だと考えていましたね。
映像の掲載先は南部美人のYouTubeチャンネルがメインのため、そこに来て見てもらうには広告の力が必要でした。実際にダイジェスト版は18万回以上の再生数を記録していて、広告を運用することが映像自体を知ってもらうことに役立ったのではないかと思っています。
※2023年7月時点
ーー今後の広報活動においてはどんな形で映像をご活用いただけそうでしょうか?
田口:今後、まずは南部美人で開催するイベントでどんどん活用していきたいです。実際、今年3月にフードダイバーシティを学ぶイベントを開催した際にはダイジェスト版の映像を上映しました。
現在プレオープン中の南部美人の酒蔵見学スペースでも流したいですね。二戸市は小さな街なので、そのスペースが観光地化する可能性が十分あると思っています。だからこそ、そうした場所で映像を見てもらって、知ってもらって、見た人の心に少しでも食の多様性について考えるきっかけが生まれたら嬉しいです。
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