エレファントストーンの新しいフラッグシップブランド『伴走型ブランディング映像制作サービスROOT』での第一弾プロジェクトは、川崎フロンターレ様(以下、敬称略)のブランディングムービー制作でした。
本ストーリーでは、プロジェクトに参加した川崎フロンターレのスタッフ3名と弊社ディレクター嶺が、8ヶ月に及んだ制作での想いを振り返りながら今後の川崎フロンターレの発展についてを対談形式でお届けします。
プロジェクト発足時の不安と期待
嶺:初回のワークショップでは『社内研修を兼ねた映像制作プロジェクト』というくらいの情報しか無かったと思うのですが、実際に参加した皆さんは当初このプロジェクトについてどのように感じていましたか?
児玉様(以下、敬称略):正直なところ最終的に映像を作っていくということ以外、このプロジェクトの内容を掴みきれていなかったです。映像を作るにしてもこの21名という大人数でどうやって進めて、どうやって意見を集約していくんだろう…という部分に少しの不安と素朴な疑問を持っていました。
西田様(以下、敬称略):当初のイメージとしては、映像の技術的な部分や制作の進行方法について学ぶことを想像していました。なのでドラマの撮影現場のようなところに同行するのかな?と想像していましたが実際にはだいぶ違いましたね(笑)
嶺:そうですよね(笑)このプロジェクトは『誰のためにどういう映像を作るべきか?』という一番初歩的な内容から一緒に考えていくことも制作過程に組み込まれていたので、スタート時点ではそう思われても仕方なかったかなと思います。
今回のプロジェクトの流れは『※THE KACHINKOで価値観を言語化→参考動画探し→要件定義→撮影内容・表現手法検討→撮影→編集会議』といったように進めていきました(図1)。各フェーズで色々と議論していただきましたが、この流れの中でプロジェクトに対して気持ちのスイッチが入ったタイミングってありましたか?
※THE KACHINKO:エレファントストーンがオリジナルで製作した価値観探求ボードゲーム。THE KACHINKOの大きな特徴は、会社や商品・サービスの価値観抽出を“その理由や背景を明確にしながら言語化できる”こと。
一見難しそうに思える価値観の言語化までの過程を、役職・部署関係なく参加者全員がゲーム感覚で楽しみながら探っていき、価値観を最終的に4つのキーワードに言語化することにより、その後のブランディングにも一貫したコンセプトを設けられるようになるのが特徴です。
THE KACHINKOの詳細はこちらから>>>ブランディングムービー制作密着レポート②【価値観探求ボードゲーム – THE KACHINKO編】
西田:私はTHE KACHINKOでフロンターレの価値観を考えた時だと思います。部署も拠点も年代も違うメンバーとただシンプルに会社のことだけを考えられましたし、THE KACHINKOをやった日は想いがすっきりしたのか、全員の気持ちが温かくなっているなと感じましたね。
児玉:私もTHE KACHINKOのタイミングです。最近入社したメンバーも交えて、価値観キーワードに対してみんながどう思っているのか意見交換しながら取捨選択していく時にスイッチが入ったというか、考えを共有する場ってすごく大事なんだなと思ったのを覚えてます。
高田様(以下、敬称略):私は直接的にワークショップの中でという訳ではないのですが、実体験とワークショップで考える内容がリンクしていたことが大きかったと思います。
等々力観戦に誘った友人や招待した関係者の方がすごく楽しんで、喜んでくれている様子を目の当たりにした時に、『このプロジェクトの映像を使ったらもっと楽しさを知ってもらえるんじゃないか』と思いスイッチが入りました。
価値観探求ボードゲームTHE KACHINKOで知ったメンバーの想い
嶺:今お話に出てきたTHE KACHINKOについてお伺いしたいです。THE KACHINKOは3つのグループ『在社歴が長い新任管理職グループ/近年入社グループ×2』で実施しました。
僕は児玉さんのいた新任管理職グループのファシリテーターをしていたのですが、THE KACHINKOは価値観を“言語化”していくゲームなので、『すべての人に届けたい川崎フロンターレの価値観』をテーマに設定して普段わざわざ言わないような共通認識をあえて言語化してもらったんですよね。
児玉:そうですね。言葉を発さなくてもお互いの考えを理解できる分、改めて言語化することによって、フロンターレの考え方についての再認識とすり合わせができたことが良かったと思います。私のグループでは価値観キーワードの一つに『LOVE KAWASAKI』を選んだのですが、元々フロンターレが使っていた言葉で意味も含めて腹落ちしたこともあり特に印象に残っていますね。
嶺:様子を見ていて、新任管理職グループのメンバーの皆さんはシルバーコレクターと呼ばれる時代や2017年の初優勝、そしてその後の常勝チームとなる過程を経験してきており、口に出さずとも伝わる共通認識が大きいんだと感じましたね。
西田:私は近年入社したメンバーのグループだったんですけど、新任管理職グループで選ばれた『LOVE KAWASAKI』を聞いた時は昔からフロンターレが使ってきた言葉という認識があったので、「愛」という言葉をフロンターレらしく上手くまとめているなと納得しましたし、自分達からは出てこなかった言葉でしたね。
高田さんとは同じグループだったのですが、フロンターレの価値観として『勝利』という言葉を残すかどうかで議論しましたよね。サッカークラブである以上勝利を目指すのは大前提という意見があった一方で、比較的在社歴の長いメンバーから『フロンターレはこれまでの歴史の中で“負けても応援してもらえるクラブ”を目指してきた』という意見もありました。もちろん勝利は大事ですが、それが4つの価値観キーワードとして残すべき言葉なのか?ということで議論が盛り上がりました。
高田:そこの議論が盛り上がったのは私も覚えてます。
児玉:私たちのグループでは『勝利』という言葉は早めに除外されてしまって、あまり議論をしなかったんです。勝つことが当たり前ではない時を長く経験してきていた世代と、勝つことが当たり前になってきている2017年以降に入社した世代では体験の違いもあるのかもしれませんね。
でも2017年に初優勝して見える景色は確実に変わりましたし、ビジネス面においても勝利はとても重要なことだと思います。
嶺:残すキーワードに正解はない前提ですが、客観的に見ていても皆さんのベースの考え方に大きなズレはなかったのかなと感じましたね。
西田:私たちのグループでは、他にも『非常識』という言葉をフロンターレらしく枠に囚われないという意味で新しく追加して議論しましたよね。
高田:そうですね。非常識という言葉に対しての視点は部署によって違いがあるんだなと感じました。でもメンバーの説明を聞いてすごく面白いなと思いましたし、とても納得できた部分でもあります。
嶺:さまざまなキャリアと部署のスタッフに通ずるフロンターレの価値観を、『すべての人に届けたい川崎フロンターレの価値観』というテーマで普段の仕事でわざわざ口に出さない内容も含めて言語化したからこそ納得感に繋がったんだと思います。
THE KACHINKOを通して、最終的に4つの価値観キーワード『追求心・一体感・LOVE KAWASAKI・個性』が選ばれましたが、これらは特定のターゲットではなくほぼ全ての人に当てはまる選ばれ方をしたなと思います。改めて見返しても、地域密着のサッカークラブならではの言葉が選ばれたなという納得感を自分も感じました。
ワークショップで流れを変えた瞬間、印象的な瞬間
嶺:THE KACHINKOの次に複数回のワークショップを経て、映像で叶えたいことや誰にどんなメッセージを届けるべきかという要件定義を整理していきました。
このROOTが行われている目的には『社内の目線を揃えること』という意味もあったため、あえて一般公開しない社内向けのムービーにするという選択肢もあり、その『誰向けの映像にするか』の意見が割れて、議論も平行線のままなかなか進まずに難航してましたよね。僕はファシリテーターをしながら内心では「決まらない…どうしようかな…」と少し焦っていました(笑)
その状況で新入社員メンバーが言った『フロンターレのスタッフとして感じるのは、ファン・サポーターの皆さんとスタッフがすごく近い想いを持っているんだということ。だからファン・サポーターへ私たちの想いをしっかり届けられるような映像を作れば、それは絶対スタッフにも刺さるものになるはず』という発言がガラッと空気を変えて、ファン・サポーター向けの映像に決まったんですよね。
入社歴の浅いメンバーのフラットな意見が新任管理職メンバーを含めて全体の空気を変えたのが印象的で、すごく良いなと思ったのですが、議論の中でそういった印象的な場面はありましたか?
児玉:私が印象的だったのは若手が発表していた時です。グループごとに議論をした後に議論内容のまとめをグループの代表者が発表することが度々あって、その発表は若手メンバーがすることが多かったですよね。その都度メンバーの話し方とかで“伝えたい”という想いが強いと感じたのが印象的でしたし、そういった姿勢を見られて良かったと思いました。
グループワークでも個人の想いを積極的に伝えようとしてくれているのをすごく感じましたし、そういう想いを持っているんだと知ることができました。意見を聞いて『あ、確かに』と納得する場面も多々ありましたね。
西田:発表は緊張しながらも頑張りました(笑)
私は部署間で見え方の違いがあった中でも、『しっかりとお互いの考え方や想いをすり合わせていきたいよね』と話し合いが進んでいたのが印象的でした。例えば要件定義で議論した『誰に届ける映像にするか』とターゲットを考える時も、営業とプロモーションでは視点が少し違っていたんですよね。
フロンターレという組織の中でも、部署によってファン・サポーターと接する頻度は異なります。あるいはフロンタウンさぎぬまや富士通スタジアム川崎のように、サッカー以外の取り組みを行なっている施設もあります。それぞれが大切にしていることに気付けたのがとても良い経験になりましたし、立場や想いを尊重しながら話し合えたのが良かったです。
高田:私は撮影準備での許可取りのスピード感が印象に残っています。撮影の依頼先は商店街の方々やパートナー企業といったフロンターレファミリーでしたが、営業の人たちがその場で『ちょっと聞いてみますね』と許可依頼の電話をしていて驚きました。普通は依頼するときは慎重になりますし『急に言っても大丈夫なの?』と思ったのですが、日頃積み重ねてきた関係性があるからこそできることだと感動しました。
嶺:撮影の許可取りはエレファントストーンでもよく行いますし、クライアントにお願いすることも多いのですが、普通はあんなにスピーディーに許可を取れないです(笑)スタッフ間もそうですが、関係者・パートナーとの距離感がすごく近いんだなと改めて思いました。
児玉:営業やプロモーションは日頃から地域と接点を持っていて交流があるので、『じゃあ電話で聞いてみるよ』というやりとりがスムーズだったのかもしれません。今までの歴史じゃないですけど、こういう場面では周りを頼る、というのはフロンターレが築いてきた一つの方法みたいなものかなと思いますね。
最終的な成果物、映像に対する反響
嶺:スタッフ同士の交流機会としても今回のワークショップは良い形にできたのかなと思いますが、最終的な成果物として出来上がった映像に対して聞いた反響はありますか?
西田:個人的な映像の感想としては、とても感動しましたし元気をもらいました。祖母にこの映像のことを知らせるか迷いましたが、せっかく良いものができたしと思って連絡したんです。そしたら、全くフロンターレを知らなかった祖母が『温かいチームだね。見ただけでユニフォーム買いたくなっちゃった』と連絡をくれたんです。それはもうプレゼントしなきゃ!と思いました(笑)
映像を見て初めてフロンターレを知ってくれた人でもそう感じてくれているんだ、届いているんだと実感できたのは嬉しかったです。
高田:私も映像にはとても感動しました。映像のお披露目となった1月22日の新体制発表会見の日、ネット配信で見ていた友人が何人も『映像で泣いちゃった、グッときた』と連絡をくれたんですよね。プロジェクト初期は不安もあったのですが、そういう反応を見ることができてこのプロジェクトに携われて良かった、嬉しいと素直に思いました。
嶺:他のスポーツファンや他のクラブのサポーターも『時間はかかるだろうけど、うちもこういう姿になっていきたい』というようなコメントをしてくれていて、そこまで届いているんだなと僕も嬉しかったですね。
このプロジェクトを通して得られたもの
嶺:改めてフロンターレという組織について考えて全体の目線を揃えるという部分に関して、ワークショップを振り返ってどのように感じましたか?
児玉:コロナ流行前の※ファン感では、部署の垣根を越えて会社みんなで準備をしていたんです。お客様を楽しませるためにという共通ゴールに向かって、文化祭みたいなノリで総出で準備する感じでした。結構大変なイベントでもありますが、普段は密に接することが少ない他部署のメンバーと交流ができる貴重な機会にもなっていたんです。
ここ3年ほどはコロナ禍でリアルでの交流の機会が減少してしまっていて意志伝達の難しさを感じていたので、このプロジェクトには違う部署や最近入社したメンバーとのコミュニケーションの部分で特に期待していましたし、実際に意見交換の時間も多くて良かったですね。
※ファン感:ファン感謝デー
西田:私は働いている部署の拠点が離れていることもあり、普段の業務ではどうしても他の部署の方と接することが少なくコミュニケーションをとる機会が少なかったんです。
今回スタッフ同士が交流できたのは、仕事をする上でもとても良い機会になったなと感じています。新人の私にとって、社内と言えども直接会って顔を見て話したことがある方だと気持ち的にもやりやすいんです。
私はこの映像を仕事前に見て、今日も一日頑張ろうって元気をもらってます。映像を見ると自分もFOOTBALL TOGETHERの一員なんだなと再認識できるんですよね。
嶺:サッカーシーン以外が多い映像でしたが、古くからのサポーターも『これぞフロンターレ、これこそがフロンターレ』『良さが詰まっている』というコメントをあげてくれていて、試合以外も丸ごとフロンターレってところがしっかり伝わっているんだなって思いますよね。
プロジェクトをきっかけに改めてフロンターレとして目指したいこと
嶺:このプロジェクトを日々の仕事に活かせるんじゃないか、あるいは今後もっとこうしていきたいなど、今の想いを教えていただけますか?
高田:サッカーに詳しい人にとってフロンターレは有名だけど、そうじゃない人にはまだまだ知られていないと感じています。
この先、この映像が一つのきっかけになり試合を見に来てもらい、そこから試合だけではないフロンターレの魅力が広がっていってほしいと思っています。そのためにもっと映像も見てもらえるようにしていきたいですね。
西田:私は入社する前から川崎に住んでいましたがフロンターレの存在をしばらくの間知らなくて、偶然テレビで知ったんです。それまでは全く目に入っていなかったものも、フロンターレを認識した瞬間に川崎の街全体が青く見えました。ふとしたところにきっかけがありますし、入口はそれぞれだと思うんですけど、私がそのきっかけになれればなと改めて思っています。
施設を利用してくださる市民の方と接する時間は一日を通してだとごくわずかですが、私にとって憩いの時間でありパワーをもらえる瞬間でもあります。皆さんにその時間をいかに楽しんでもらうかをいつも考えていますし、川崎フロンターレを知らない方にも私がきっかけとなり、“等々力、試合”という非日常を最終的に知っていただきたいなと思っています。あの試合での熱狂を感じてもらうきっかけづくりをすることが、日常に寄り添って働く私の役目なのかなと思っています。
児玉:川崎市は人口が約154万人いて、その中でもフロンターレの後援会会員数は4万8千人です。これから引っ越してくる人たちも含めて、知っている人の輪を広げていく活動をもっともっとしていきたいと思っています。
過去の西田さんのように、まだフロンターレを感じられていない方に対して知ってもらうきっかけづくりを、この映像制作を機にもっとやっていかないといけないなと感じたと同時に我々のミッションだと再認識しました。
さいごに
総勢21名のメンバーとともにプロジェクトを完遂させるには、エレファントストーンだけの力では難しいものがありました。本プロジェクトを進行するにあたり、川崎フロンターレの吉冨様と杉山様にメンバーのとりまとめなどサポートしていただきました。長い期間ご協力いただき、誠にありがとうございました。最後に吉冨様と杉山様よりプロジェクトへの感想を頂戴しております。
吉冨様「近年入社グループのメンバーが回を重ねるごとに主体的に話すようになってきたのが一番驚いた部分でした。はじめはほとんど自分から話さなかったメンバーも、同じメンバーとワークショップを重ねたからか、どんどん発言するようになった気がします。このグループワークは意味があるなと感じていました。
そして部署も拠点も違うメンバー同士が話す機会になったのが、このプロジェクトを実施した上での一番の収穫でした。全13回のワークショップをやっているとメンバーの特性が見えてくるんですよね。この人は人前で話をするのが上手い、資料作りが上手いとか、それを知れただけでも意味があったかなと思います。こういった機会がなければ、会話する機会が限られるメンバーもいたので、お互いを知ることができただけでも次の仕事に繋がるなと感じています。」
杉山様「普段とは少し違う視点でフロンターレを見つめ直して、メンバーの意見を聞いてクラブのあり方を考える時間を定期的に提供できたのがROOTを実施して良かった点でした。ワークショップ後のレポートに『日々業務に追われる中で、この時間は純粋にフロンターレのことだけを考える時間で自分にとってプラスになっている』と書いているメンバーもいて、正直その効果までは想像していなかったです。
このプロジェクトと業務との両立が難しい時もあったと思いますが、最終的に出来上がったものにはみんなすごく満足してくれていると感じています。『映像を見て日々のモチベーションを上げている』という声を聞けて嬉しかったですし、結果として自分たち自身を支えるものになったんだなと思います。『ファン・サポーター向けの映像は社内にも刺さる』という言葉が実現されていると感じました。」
ブランディングムービー制作ドキュメンタリー映像 & 密着レポート公開中
全13回にわたって実施したワークショップの様子を12分弱の映像にぎゅっとまとめました。ぜひスタッフの実際の様子もあわせてご覧ください。
また全4編の密着レポートでは、参加者へのインタビューも交えながら様子をお届けしています。ぜひご覧ください。
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